携帯電話業界の今後(SIMロック解除とクーリングオフ導入後の世界)

諸般の事情もあってこの手の話は控えめにしていたのですが、久しぶりに携帯電話業界で話題になっているSIMロック解除とクーリングオフの話について書いてみることに。この話題少し落ち着いてきたしね。

■携帯業界は成熟機

既に日本国民の数以上の回線が契約されている携帯業界。
バズワードですけどIOT(internet Of Things)の思想みたく、今までネットに繋がっていない機器が通信対応することで出来なかったことが出来るようになる点から、緩やかながらも今後も続いていくと思われますが、逆に「あったら良いな、無くても困らない」の話でもありまして、スマホやガラケーみたいに1人1台まで普及させることはなかなか難しいわけです。だからこそドコモの新料金プランみたいにパケット通信のデータ量をシェアできるプランが登場したりと、普及障害を取り除くような対応もなされていますが、それでも何個も増えていくかは謎。
ただ、ある人は○○、ある人は××と、規模は小さいけど人によってそれぞれ違う機器があるみたいな形で、単純計算で1人1.5個~2個ぐらいまで広がっていくんでしょうね。

各社、前述した○○や××としてフォトフレームとか、タブレットとか、キッズフォンとか出してきているんですが、やはりユーザーから見れば「あったら良いな、無くても困らない」ですし、各社も提案したいという思いはあるんでしょうけど、財布の紐は固いから無料で配る方向に進みがちで、気がつけばキャリア間の加入者数競争として回線を増やすための手段になってしまっている感があって個人的には残念だったりもします。
さて、このキャリア間の加入者獲得競争は昔からあった訳ですが、それが年々激化していました。一つの指標として月間で最も顧客を獲得することを良しとする風習があり、それがユーザーにとっても一つの評価指標となっていた部分もあります。(実際は数だけではなくエリアとかいろいろ要素はある訳ですが、多く加入するということは信認されているという風に思えてしまう訳で。これは情報を持っていない人ほどそれが参考になりますので)

この競争において、数年前までは定価数万円する機器が一括0円で買えるぐらいの話だったのですが、この1-2年は一括0円でかつ現金や商品券によるキャッシュバックが付くようなケースも。また中には端末は定価なんだけど契約時に現金でお金を上げてしまう、正直オトク度はないんだけど、お金が無い人向けに当座資金を提供する、まるでキャッシングでお金の手法を取り入れる代理店さんも。競争激化で金額もどんどん増加した結果、解約新規を繰り返す人が登場、マスコミにも報道され世間に広く認知された結果、お国にも目を付けられ、一旦沈静化しました。
(最近また復活しているけどもね)

さて、この競争激化による弊害はキャッシュバックだけでは止まりませんでした。もう一つは、代理店側の獲得方法。昔と違って携帯電話を取り扱うお店は格段に増加しました。故に他店に負けないようにするために利益をユーザーに還元する、すなわち定価より安く売る行為に走ることになるため薄利多売に。しかし一定の利益を上げなければ商売成立しないので代理店としては1台でも多く売りたい。故にオプションを付けて貰うことやタブレットやデータカードなども契約してもらう動きが盛んになったわけです。(まぁキャリアも獲得競争にかつべくインセを盛ったりしていましたが。)
しかし一部の店舗では、ここの説明をシッカリしないまま勝手に付帯したり、付帯しないと販売すらしないなど目に余る行為もあったようで・・・。契約時に様々なオプションを契約させられた等のクレームについて消費者センターへの相談件数が年々増加。とうとう消費者センターが問題視し総務省や内閣府に対策するよう促すように要請しました。
(代理店側の問題もありますが、コンテンツサービス側では解約阻止のために解約導線を複雑怪奇にしてユーザーを断念させようとしたり、キャリアも自社サービスについてインセ設定し代理店に獲得促進したりしていたので、その一端はあったりしますが)

さて、今まで2つ問題を取り上げましたが、この話が今大きな問題になりました。それはある意味タイミングが悪い話ですが、総務省が2020年代の情報通信のあるべき姿を議論する「2020-ICT基盤政策特別部会」の開催タイミングだったこと。これ以外にも検討部会があったりしますが、この部会は総務省があるべき姿をどうするべきか検討する政策部会で過去にも度々実施され、光の道議論などもあったもの。今回はこれらの問題も含めて今後のあるべき姿が論じられていて最近出てきた中間報告では、SIMロックを解除することやクーリングオフ適用などを盛り込むことになりました。

■SIMロックやクーリングオフでどうなるのか?
政策部会としては、SIMロックしているから逃げられる可能性がないのでインセをたくさん盛ることができることを問題視していて、SIMフリーならば流動性が高まるからインセを盛りにくくなるし、今までのインセに回さないならその分月々の料金も減らせるであろうという考えています。またクーリングオフでは本来通信販売等でしか適用できなかったものを携帯電話販売時は対面販売でも適用させることで極端な話白紙に戻すことができ、代理店に一定の抑止効果を与えられると見込んでいます。

正直、クーリングオフについて結構なインパクトがあると思ってます。これは代理店だけでなくキャリアも。
代理店視点で言うと、1つは店員さんがテキトーに説明していたケース。ちゃんと説明しない、誤魔化す、そう思わせるようなトークをしてその場を乗り切っても後で引っ繰り返される可能性があります。故にちゃんと説明しないといけませんから1顧客に対する説明時間は今以上に増えることになります。結果としては利益確保の為にオプションをたくさん付けさせる行為から数を減らす方向に動く可能性があります。そしてもう一つは、いくら店員さんが丁寧に説明していたもお客さんのスキルが低すぎるケース。結局いくら丁寧に説明してもお客さんが理解できていなければ引っ繰り返される恐れがあります。こちらも前述同様、数を絞る方向に行くと思っています。そうなれば代理店としては利益が減りますから、店舗が増え薄利多売な業界なので苦しくなる店舗も出てくると思います。

今度はキャリア視点ですが、クーリングオフを適用された場合、一度使った端末も返却となります。総務省はSIMフリーにすれば返品にならずに済む的な話も出てましたが、後述しますがSIMフリーを外したら何処のキャリアでも使えるということはiPhoneを除き出来ません。結局他キャリアに行っても、一部エリアが使えない等の制約があるため結果返品せざるえないのです。キャリアには中古化された端末が残りますから、メーカーにお金を払い外観パーツを交換、内部も点検した上で修理時の預託機交換用とするか、新古品扱いとして販売するか、どちらにしてもコストがかかります。よって、また確定になった訳ではないので、各社ここを死守すべくいろいろなところに働きかけをするのではないかと?
もし総務省がチカラづくで進め義務化した場合は、今後各キャリアはクーリングオフ件数を減らすために代理店評価を強化し、問題を起こす代理店を排除するようなことが出てくるかもしれません。

ぐたぐた書きましたがこのクーリングオフは代理店にとっても、キャリアにとってもリスクの高い話だったりします。

■SIMロック解除の影響はキャリアにとっては軽微だけど、ユーザーと電話機メーカーにとっては・・・。

さて、先ほど軽く話してしまいましたがSIMロック解除の話ですが、少なくともキャリアにとってはあまり影響はありません。というのも、SIMロックを解除しても各キャリアは使用する通信規格、使用周波数がそれぞれ異なるから。詳細解説は割愛しますが、例えばAUはCDMA2000、ドコモやソフトバンクはW-CDMAと規格が異なるため、周波数が同じでもAU端末をドコモで使うはできなかったりします。またドコモとソフトバンクはどちらもW-CDMA、FDD-LTE規格に対応していますが、両者共通している周波数は2.1GHz、一部端末で1.7GHzぐらい。ドコモは地方では800MHz帯でエリア整備していますし、ソフトバンクは900MHz帯で整備しています。故にソフトバンク端末をドコモに持っていっても、800M帯が使えないので地方じゃ圏外になってしまうなんてオチもあります。故に大半の端末は何らかの制約が伴うためsimロック解除したところで使えないのです。唯一これらのことを意識しないで済むのがiPhone5s以降の端末。この端末からappleがauでもドコモでもソフトバンクでも同じ型番で利用できるようにしたので、解除できれば乗り換えて制約使用することができます。
ただ、iPhoneのSIMフリー品は既にappleさんが日本向けにも販売していますので、今更というのもあります。正直、総務省のWGメンバーのお話を見ているとiPhone前提の議論しかしていなかったので・・・・。

またこれを機にメーカーが3キャリアに対応させた端末を作るかもしれない、いや3キャリアが自ら他社でも使えるようにするかもしれない・・・という考えも出てきそうですが、これも少ないです。確かにiPhoneはメーカー自ら効率性を考えて作られていますが、国内メーカーの場合未だキャリアに買ってもらう姿勢のままです。キャリアから見ればメーカーから買う際に余計なハードが追加され、そのコストまで払う気はありません。ましてや不要な機能に対してキャリア側も受け入れの検証体制・費用も必要になりますからそのコスト負担もしたくないはず。
そもそも今回総務省はSIMロック解除だけでハードの仕様まで統一しろとは言ってませんからキャリア自らメーカーに仕様要求することもないでしょうね。結局また総務省が描いている世界とは違う世界。すなわち不本意な世界になるのでしょうね。故にSIMロック解除はキャリアには影響はほとんどないと思います。

■基本料は安くなる?端末単価は高くなる?
それでは、基本料は安くなるのか。端末単価は高くなるのか?ですが基本料金等下げる方向に向くというのもあまり効果はないと思ってます。
営利企業ですから、減収すれば株主から刺されます。10-15年前、PDC全盛期に基本料が下がっていった時代はまだ今ほど利用者は多くなく、まだまだ加入者が増えるノビシロがあったのです。でも今は、そんなノビシロはもうありません。パケットをシェアしちゃうぐらいです。総務省が下げろと言えばできるかもしれませんが、それって国が営利企業の経営干渉するとも取られかねないので、やれないですよね。

では、端末単価ですが、これは2つ動きがあると思ってます。
1つはインセ原資の考え方が変わり、(今のままの高スペック製品ならば)ユーザーの負担額が増加する可能性。
キャリアは平均契約期間、端末の平均利用期間(3-4年)=収入を前提にして獲得インセを設定します。もちろん他社競合上仕方なくもありますが本意でやるわけではありません。もし2年縛りが禁止されたり、2年縛りは認められても2年以降は再度2年縛りできないとかになるならば、契約期間が変わる可能性がありますので、原資を多少見直す可能性はあります。簡潔に言えば減額ですね。なぜなら2年経てば解除して移行する可能性が出てくるので。だから不良在庫を一掃したいタイミング(商戦期が変わるタイミングと不人気端末)はインセ原資増加させてユーザーの負担額が安くなることはあっても、通常時期は今よりユーザーの負担額は増加すると思います。

ただ、これだと売れなくなる可能性があります。そこでもう1つの動きは、端末の機能を削減し、端末価格を下げる動き。高機能にする故にカスタマイズする故に製造単価は上昇し、ユーザー販売価格すなわち定価は高くなりぎみです。(ちなみに発注数を増やせば?価格は下がる可能性ありますが、なんでも売れる時代じゃない中で大量生産するリスクって怖いですよ・・・。)
今まではインセ原資をたくさん積んだ故に安くできた訳ですが、それが厳しくなるから先ほどユーザーの負担額は上がるという話でしたが、ならば端末の機能を落とせば・・・となります。故に不要な機能・付属品を減らすことで定価を抑えようとするはずです。

なので、ユーザーの実質負担額が0円な端末は今後も出てくるとは思いますが、機能が削減されていたり、製造コストが安くなるまで待つためCPUやメモリーなど最新コアの採用が今より遅くなったりする可能性はあるかもしれませんね。

■私が考える公正な世界
長々となりましたが、思っていることをまとめて見ました。
でもユーザーが思っているほど、総務省が思っているほど世界は変わらないかなって気はしますね。

ただ公正な世界にする方法はあったりもします。それは香港での販売方法あたりが参考になります。その上で以下のような形にできると結構、MNPをグルグル回して小金を得る方々を排除できつつ、長く使う人、2年程度で解約する人。どちらもにとっても公正な状況になるような気がしますが・・・

1、インセンティブはユーザーが契約時に契約期間をコミットメントする。そして従量制部分を除きキャリアへ支払う固定費用の総額を上限として、運営コストを差し引いた利益部分の中から原資となるインセ額を決定する。(1年契約じゃ2万円。3年契約したら7万円とかに。)
 ※結果として短期契約者が端末買うとき負担額は増え、長く契約する人は端末が実質0円で買える
2、インセティブは、端末の購入費用に充当しても良いし、毎月の基本料から充当と選べる。
  ※そうすればSIMフリーユーザーも恩恵が得られる
3、契約期間内に解約する場合は、先に貰ったインセ額を全額返金する。
  (2年縛りのような違約金1万円ではなく、貰った分だけ返す。何ヶ月か契約しているならその部分を除いた、残期間分を返す)
4、契約期間が過ぎたら、再度契約継続するか決めるための手続きをする。そしてこのタイミングで新規契約者同様なインセが得られるようにする。

ただキャリアにとっては減収だろうな。