三菱自動車の燃費不正について思うこと(JC08モード等の燃費測定方法を見直すべき)

三菱自動車プレスリリース
※三菱自動車プレスリリースより。

4/20に突如発表された「燃費試験における不正行為」
そもそも、自動車メーカーはクルマを開発し販売するためには事前に国交省に車種毎にどういう仕様なのか届出を行ない、国交省側で(ほぼ机上だけど)本当に国内の法規制に適合しているか確認するプロセスがある。このプロセスが問題なければ晴れて型式認証が取得でき、それによって販売が可能になる。これはケータイなどの通信でも似たような仕組みがある(JATE、TELEC)

この型式認証時には燃費試験データも提出することが求められており、その燃費試験はJC08モードという利用シーンを想定した走行方法でどの程度の燃費になるのか測定することになっている。

今回は、このJC08モードの試験方法が想定よりも悪かったようで、そのままではエコカー減税の非適用や他社の車種より見劣りすることから、5-10%程度試験データの値を良くしてしまった(=水増し)というのが経緯のようである。なお、ekワゴンやディズのJC08モード公称値を見ると装備内容によるが1リッターあたり26キロ~30キロ程度となっているので、本来は24-27キロ程度だったということが推察される。

ちなみに昨年、海外で問題になったフォルクスワーゲンのディーゼル車での排ガス規制逃れに続き不祥事で、自動車業界には激震。フォルクスワーゲンの場合は、規制値を満たしていない=公害撒き散らし、かつ出荷台数もそれなりにあったため影響度がデカく大きく問題になったが、三菱の場合は嘘をついたことは許されるものではないが、燃費結果を少し水増ししていただけで環境悪化等をさせている訳ではないので、(比較すべきではないが)まだ可愛いものかもしれない。(ちなみに燃費偽装では、2014年頃に韓国の現代自動車が燃費を水増し販売。後日発覚して制裁金等課せられた。この当時はウォン安だったこともあり日本車並みの性能を持ちながら価格お手頃と訴求し、それなりに売れていた。)
先ほど可愛いかもと言ったが、とは言えユーザーから見ればカタログ等で示されたJC08モード数値が悪くなるのだから騙された!!と言いたくなるだろう。ただ、そもそもJC08モードという試験測定方法自体が実態と乖離している状況なので、あまり実態への影響はさほどなく、ここを騒ぐよりもJC08モードそのものなどに疑問を呈したら?というのが正直なところ。(影響があるのは、エコカー減税だけ)

JC08モードの数値と実態に乖離がある話は、無頓着な方を除けばクルマ乗りなら誰しも知っていることだと思うが、カタログで1リッターで○○キロ走ると言われ買ったものの、いざ走ってみるとカタログで示された数値の30-40%程度低いなんてことも多いかと思う。特に燃費を売り文句にしている車種、ハイブリットカーなどでは結構な差が開いてしまうことが多い。また季節によって差が拡大したり、縮小したりもする。では、どんな試験をしているのだろうか?

JC08モード概略図(日本自動車工業会)
JC08モード概略図

まず上記を見てもらうと、JC08モードでも試験方法。20分という試験時間に、ストップアンドゴーを繰り返すようになっている。最初の10分ぐらいまでは比較的渋滞もない郊外を走行しているような感じだが、10分以降は渋滞にハマり停止している時間が多く、また終盤では高速でも走った?と言いたくなるような速度になっている。

これだけ見ると、大都市圏で通勤でマイカーを使っているような人には実態と違うと思うかもしれないが、郊外や地方都市ならそんなに違和感がないかもしれない。ただ、試験環境と条件で見てみると違和感が出てしまう。
ちなみに環境と条件は以下。

・試験環境
 ・シャーシダイナモ
 (ローラー上を走行するので、ハンドル操作はなし、上り坂・下り坂もないし、路面の違いもなし。当然試験環境は室内になるので気温も比較的暖かめ。)
 ダイナモメータ設備(日本自動車研究所)
シャーシダイナモ(日本自動車研究所)

・試験条件
 ・エアコン、カーナビなどは電源オフ。
 
 ざっくりこんな感じ。カーナビやエアコンだけでなくハンドル操作だって電気が必要なのでエンジンのパワーが必要になる=負担が掛かる訳だけど試験では無いし、坂道もない。路面だって補修によるベコボコなども無いから試験時は走行時の抵抗もない。これだけでも十分差が出てしまうけど、挙句試験に慣れたドライバーによる絶妙なアクセル加減も加わる。日常では流れに合わせる形で多少急な加速をすることもありますが、それもありません。これだけ一般的な使用とかけ離れている訳ですから、乖離することは当然だったりするのです。とは言えメーカーや車種によって乖離率にも開きがあるので、このあたりはテストドライバーだけの問題なのか、はたまた別の何かがあるかは謎ですが・・・。

少し戻りますが今回発表されたJC08モード(公称値)の不正はあってはならないことなのですが、そもそもJC08モードの試験方法をもっと現実に近づけるべく見直すべきでは?というのが本音だったりします。
国交省はこれを機にもっと厳密にして欲しいなと思います。

さて、2度目の失態を犯してしまった三菱はどうなるのでしょうか?
正直、ここから変わることは相当難しいかもしれません。お客様にソッポ向かれるという大前提もありますけど、そもそも今回燃費データの不正に至った背景には、前回の不祥事でお客様離れが進んだ結果、売上が低迷し研究開発費も満足に増やせない状況があったのかな?と思います。その一方で三菱を除く各社は燃費改善に向けた研究開発が進み、燃費改善を実施。結果として三菱と他社との差が開いてしまっただろうし、軽自動車への税制優遇見直しで減税適用から外れてしまう可能性が出てきたことで、ますますユーザーからソッポ向かれてしまう危機感もあったはず。どうにかせねばという想いが三菱にはあった筈ですが、現状ではどうにもならない・・・。結果としてやってはいけない不正に手を出してしまったんだと思います。

今後、立て直すとしても再び売上低迷するでしょうから、研究開発もさらに厳しくなると思います。また人材流出だってありえます。最終的にはどこかの自動車メーカーの支援を受けざる得ないかもしれません。ただそれが国内なのか海外なのかは不明ですが・・・・